私、不動産投資、始めます。 ~T郎side episode2~

診察以降のT郎の様子

「損害賠償だ!不具合多数、要望も未反映、データも不正確!一体、どうなっているんだ!」

T郎は、ベッドから飛び起きた。

プロジェクトの稼働後、睡眠時間も取れず、恫喝まがいの声をかけられる日々。

対応しようとしても、1時間も経たないうちに、再度の呼び出し。

この繰り返しだった。

(誠心誠意、お客様のためを思って、身を削って、家族のことも顧みず、

このプロジェクトのために、すべてを捧げたというのに・・・。

自分は全く役に立たなかったのだろうか?

道路に飛び出して、死にたい気持ちにもなったし・・・。

一体全体、どういうことだったんだ。夢だったのだろうか?)

そんなことはない。すべて現実だった。

ある日、階下から、K子と3人の子供たちの声が聞こえてきた。

「ただいま~!」

「おかえり~!」

(ああ、俺が知らないところで、K子と子供たちはこんなやり取りをしていたんだな・・・

家族が元気だったなら、本当に良かった・・・)

そんな感情が沸々と湧いてきた。

そのとき、上司から携帯メールが入った。

「とりあえず、1か月は休暇を取ってください。また、今回のプロジェクトからは

外れてもらうことになったことも併せて伝えておきます。

また、動きがあったら、連絡するので、まずは、ゆっくり休んでください。」

とのことだった。

T郎は

「了解です。」

の一言だけを返信した。

そして、ある日、ようやく気持ちに多少の余裕が感じられたため、

K子に話をしようと思い、階下のリビングへ向かった。

「K子、いろいろ迷惑をかけてすまなかった。

実は、上司との連絡をメールでやり取りしていたんだが、とりあえず、

一か月は有休というかたちで休むことに決まった。

あと、これまで関わっていたプロジェクトからは離脱することとなったそうだ。」

「分かったわ。良かったわね。ゆっくり休んでね。

1週間後の診察は行けそう?」

「ああ、大丈夫だと思う。じゃあ、また、寝室で休んでくる。」

T郎の不安は完全に晴れた訳ではなかったが、なんとか来週の診察には迎えそうな気がした。

再診察

そして、前回の診察から2週間後、再診察を迎えた。

前回と同様、カウンセラーによる簡単なヒアリングと医師による診察を受けた。

「T郎さん、調子はいかがですか?」

医師がT郎に尋ねた。

「2週間休んだこともあって、多少、回復はしてきたような気がします。

ただ、やっぱり、私が抜けたプロジェクトのことがどうしても気になってしまいますね・・・」

「お気持ち、お察しします。ただ、調子が回復してきたのはたいへん良かったです。

お休みはいつまでになりそうですか?」

「そうですね。あと、2週間です。あ、あと、現在のプロジェクトからは

私は離脱することになりました。」

「それは良かったですね。では、引き続き、自宅で静養してください。

また、2週間後に来院をお願いします。」

「分かりました。」

K子のほうを見ると、ほっとした表情をしているように見えた・・・

T郎の仕事への復帰

そして、2週間後。

再診察を受けて、仕事復帰に問題ないことを医師から伝えられたため、

T郎は翌週月曜日から仕事復帰することとなった。

「あなた、良かったわね。」

「ああ。」

そう答えつつも、一抹の不安は晴れなかった。

どうしても、外れたプロジェクトのことが頭から離れず、

恫喝まがいのお客様からの声が相変わらず頭に鳴り響いていたからだ・・・

そして、T郎は、さらに2週間程度の試験出社を経て、産業医面談を実施することとなった。

「体調はいかがですか?」

産業医がT郎に聞いた。

「はい、完全ではありませんが、復帰することはできそうです。」

(本当は、まだまだ不安だし、また同じような状況になるかもしれないが、

収入のことを考えると、のんびりもしていられないし、ここは、問題なし、

としておこう。そして、少しずつ、復帰していけばいいだろう・・・)

これが本音だった。

そして、産業医から仕事復帰して問題なし、との見解をもらえたため、

6月中旬から正式に仕事復帰することになった。

それから半年間は、上司の計らいもあり、高負荷のかからない軽微な仕事、

また、残業時間の配慮も十分され、大きな問題はなく、時が経っていった・・・

ところが、半年が経過し、T郎も通常の日常生活に慣れ始めたころ、

またしても、「大問題」が起こるのだった・・・

~T郎side episode2~ to be continued・・・

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